大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和63年(オ)35号 判決 1990年6月28日

上告人

右代表者法務大臣

長谷川信

右指定代理人

岩佐善巳

外一一名

被上告人

日本火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

品川正治

右訴訟代理人弁護士

飯沼春樹

児玉譲

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人菊地信男、同鈴木芳夫、同浦野正幸、同竹田博輔、同高村一之、同大田黒昔生、同藤宗和香、同山諸剛二、同藤井康夫、同菅野隆、同月原進、同田中正春の上告理由について

国税徴収法(以下「徴収法」という。)二二条一項は、納税者が他に国税に充てるべき十分な財産がない場合において、その者がその国税の法定納期限等後に登記した質権又は抵当権を設定した財産を譲渡したときは、納税者の財産につき滞納処分を執行してもなおその国税に不足すると認められるときに限り、その国税は、その質権者又は抵当権者から、これらの者がその譲渡に係る財産の強制換価手続において、その質権又は抵当権によって担保される債権につき配当を受けるべき金額のうちから徴収することができる旨を定め、同条五項は、右譲渡に係る財産に対して強制換価手続が行われた場合に、税務署長が、同条一項の規定により徴収することができる金額の国税につき、執行機関に対し、交付要求をすることができる旨を定めているところ、右財産に対する強制換価手続が不動産競売手続である場合には、右交付要求は、執行裁判所が民事執行法に基づいて定めた配当要求の終期までにしなければならず、右配当要求の終期後にされた場合には、国は、当該不動産の売却代金から配当を受けることができないと解するのが相当である。けだし、徴収法二二条五項所定の交付要求は、前記質権者又は抵当権者が配当として受けるべき金額に対し、国税の特別徴収権能を認めたものではあるが、同法八二条に定める交付要求と同じく、税務署長が自ら強制換価手続を行って租税債権の徴収を図るためのものではなく、すでに他の執行機関による強制換価手続が進行している場合に、その手続に参入して債権の満足を得ようとするものであるから、このような場合には、特段の法令の定めがない限り、当該強制換価手続の手続上の制限に従うべきであると解されるからである。

これを本件についてみるに、原審の確定した事実によれば、(一) 被上告人は、昭和五八年六月七日、訴外地銀生保住宅ローン株式会社に対し、住宅ローン保証保険契約に基づいて一五二四万一六八六円を支払ったことにより、訴外櫻井博に対し同額の求償債権を取得し、かつ保険代位により同人所有に係る第一審判決添付の別紙物件目録記載一ないし五の不動産(以下「本件不動産」という。)を目的とする第一審判決添付の別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の抵当権(千葉地方法務局船橋支局昭和五二年五月二五日受付第二五七〇二号設定登記)の移転を受けたが、右抵当権は上告人の櫻井に対する所得税の法定納期限等後に設定登記されたものであるところ、(二) 本件不動産がその後櫻井から訴外慶相哲に譲渡され、(三) 被上告人の申立により千葉地方裁判所が本件不動産の競売開始決定をし、(四) 市川税務署長が、右競売事件の配当要求の終期である昭和六〇年四月二一日より後の同年五月一三日付けで、同裁判所に対し、櫻井に対する前記所得税合計一五五八万一七八八円について徴収法二二条五項による交付要求をしたというのであり、前記説示に徴すれば、同税務署長のした交付要求は、前記配当要求の終期後にされたことが明らかであるから、上告人は右交付要求によって本件不動産の売却代金から配当を受けることができないものである。これと同旨の原審の判断は正当と是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大内恒夫 裁判官角田禮次郎 裁判官四ツ谷巖 裁判官大堀誠一 裁判官橋元四郎平)

上告代理人菊地信男、同鈴木芳夫、同浦野正幸、同竹田博輔、同高村一之、同大田黒昔生、同藤宗和香、同山諸剛二、同藤井康夫、同菅野隆、同月原進、同田中正春の上告理由

上告人は、上告の理由を次のとおり明らかにする。

一 原判決は、「千葉地方裁判所は、原告の申立てにより、当時訴外慶相哲の所有であった別紙目録一ないし五記載の各不動産につき、同庁昭和五九年(ケ)第五六一号不動産競売事件(以下、本件競売事件という。)として不動産競売手続を開始し、昭和六〇年一〇月四日の配当期日において、別紙配当表を作成した。同配当表によれば、原告の別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の債権に対する配当額が0とされ、被告の国税徴収法(以下徴収法という。)二二条に基づく昭和六〇年五月一三日付交付要求(以下、本件交付要求という。)に対する配当額が金一一二二万八九九一円とされている。本件交付要求は、本件競売事件の配当要求の終期である昭和六〇年四月二一日より後にされたものである。」(原判決一五丁表初行から六行目までに引用する一審判決一八丁表六行目、二丁表末行から同裏末行まで)旨の事実を確定した上、「徴収法二二条五項の交付要求には、民事執行法八七条一項二号が準用され、その終期は配当要求の終期に限定されると解する。」(原判決一五丁表初行から六行目までに引用する一審判決一八丁表七行目から九行目まで)旨判示している。

しかしながら、原判決の右判断は、国税徴収法(以下、単に「法」という。)二二条五項及び民事執行法八七条一項二号の解釈適用を誤り、民事執行法八七条一項二号を準用すべき場合でないのに、法二二条五項による交付要求につき民事執行法八七条一項二号を準用した違法を犯したものであって、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

以下、その理由を項を改めて述べる。

二 法二二条五項の交付要求は、同条一項の譲渡に係る財産につき強制換価手続が行われている場合に、右強制換価手続に参加している同項所定の担保権者が受けるべき配当金について、右強制換価手続を主宰する執行機関からの右担保権者への当該配当金の交付を制限し、譲渡人に係る国税に充てるため、同条二項が定める限度で当該配当金を国に交付することを求める徴収処分であって、次のとおり、民事執行法上の配当要求の終期には限定されず、執行機関が配当すべき金銭を右担保権者に交付するまで行うことができるものと解すべきである。

1 法二二条の規定は、昭和三四年に行われた国税徴収法の全面改正により新設されたものである。右改正は、租税徴収制度調査会の昭和三三年一二月八日付け大蔵大臣に対する答申(租税徴収制度の改正に関する答申)を受けてなされたものであるが、右答申は、質権又は抵当権付財産の譲渡と租税との関係について、「納税者の財産に質権又は抵当権(以下この項において「担保権」という。)が設定されている財産(以下この項において「担保財産」という。)が譲渡された場合には、その財産価額からその担保権により担保される債権額を控除した額を譲渡価額として取引されることが通常であり、かつ、担保権者は、譲受者の租税を予測できない立場にあるから、譲受者の租税が被担保債権に優先することは適当ではない。しかし、他面譲渡者である納税者の租税に劣後していた担保権が担保財産の譲渡によりすべて租税に優先する結果となることも、租税回避の途を開くこととなり、適当ではないから、次により措置すべきである。」とした上、「担保権者は、納税者の租税に劣後することを予測していたのであるから、納税者の租税は、担保権者がその被担保債権額のうち担保財産が納税者の所有に止っていたならば弁済を受け得なかったであろう金額を限度として、担保財産の換価代金につき、担保権の被担保債権に優先して徴収する。」とし、その徴収手続としては、「納税者の財産につき滞納処分をしても、なお租税の徴収に不足すると認められるときに限り、納税者の租税につき法定転担保権を設定することができるとし、転担保権の登記又は登録を嘱託する。」「担保財産につき、強制執行、競売又は破産手続等が進められている場合には、上記の法定転担保権により徴収できる金額を限度として、納税者の租税につき、交付要求をすることができ、その額を限度として、その担保権により担保される債権への配当額から交付を受けることができるものとする。」旨の答申をした(同答申六ページ)。この答申の考えは、基本的には法二二条に生かされているが、転担保権の構想については、民法の転抵当の制度自体が必ずしも明確ではなく、執行上において種々の解釈上の混乱を生ずることが危ぐされたため、国税については担保権者が配当を受けるべき金額につき交付要求をすることができ、また担保権者が競売の申立てを行わないときは、これに代位して実行することができる旨を規定するとされたのである。

右のような立法の経緯によって明らかなとおり、法二二条は、譲渡前の担保権者の予測可能性を考慮し、譲受人に係る国税については国税優先の原則(法八条)の適用を制限する反面、譲渡人に係る国税に徴収不足が生ずる場合には、右担保権者が享受する予想外の利益からその不足する譲渡人に係る国税を徴収できることとし、もって、担保権付財産が譲渡された場合の当該担保権と国税との間の利害の調整を図ることを目的として、法一七条とともに制定されたのである。

本件の場合、譲渡人に係る国税の法定納期限等は、いずれも昭和五二年四月三〇日以前に到来しており、(法一五条一項一号)、他方、被上告人は、訴外地銀生保住宅ローン株式会社がこれよりも後の同年五月二五日に本件各不動産に設定した抵当権の移転を受けた(移転登記は同五八年七月九日付け)ものであるから、上告人の租税債権は、もともと被上告人の被担保債権に優先していたのであり、右の立法経緯からすれば、たまたま本件各不動産が他に譲渡されたからといって、右の優劣関係に変化を来すいわれはないのである。

ところで、法二二条五項所定の強制換価手続における執行債務者は、同条一項の譲渡に係る財産を譲り受けた新所有者であり、同項所定の担保権者ではない。したがって、法二二条五項の交付要求権者は、当該強制換価手続の執行債務者に対する債権者のように当該強制換価手続上に独立した地位を有するものではなく、自らが直接に強制換価手続に参加することはできないのであって、単に、強制換価手続に参加している右担保権者が配当を受ける場合に、同人が受けるべき配当金のうちから同条一項の規定により徴収することができる金額(以下「徴収可能金額」という。)の国税を自己に交付すべきことを求めることができるにすぎない。

右で述べたような法二二条五項の交付要求権者の強制換価手続上の地位は、民事執行法上の配当要求権者とは異なり、前記担保権者の債権者が担保権の被担保債権に対して民事執行法上の債権差押えをした場合の当該債権者の地位に類似している。

もっとも、右差押債権者の場合は、右配当金のうちからまず自己の債権の回収を図ることができ、また、右担保権者の一般財産からその債権を回収することもできるので、担保権の被担保債権が任意に回収された場合や右担保権者が執行機関から配当金の交付を既に受けた後であっても、右担保権者からその債権の回収を図ることができる。これに対し、法二二条五項の交付要求権者は、前述したように、仮に譲渡前に強制換価手続が行われたとすれば右担保権者が配当を受けることができたはずの金額を先に右担保権者に回収させた上、その残余から徴収可能金額を徴収するにすぎず、また、右被担保債権が任意に回収された場合や右担保権者が執行機関から配当金の交付を既に受けている場合には、徴収可能金額を徴収することはできない。すなわち、右担保権者が執行機関から配当金の交付を受けることができる状態にあるときに限って、同人が受けるべき配当金のうちから徴収可能金額を徴収することができるにすぎないのである。このように、法二二条が適用される場合の譲渡人に係る国税債権者は、同条一項所定の担保権者に対する債権者とその性質が類似する面を有してはいるが、右に述べたような相違点もあるため、国税債権をもって右担保権の被担保債権や右担保権者が有する配当金交付請求権を差し押えることを認めることはできない。そこで、法二二条五項は、同条一項の譲渡に係る財産につき強制換価手続が行われた場合には、税務署長は、強制換価手続を主宰する執行機関に対し交付要求をすることによって、執行機関が右担保債権者に配当すべき金銭を交付するのを制限し、配当金のうち徴収可能金額については税務署長に交付すべき旨を要求することができることとしたものと解される。ちなみに、法二二条一項の譲渡に係る財産につき強制換価手続が行なわれない場合、税務署長は、右担保権者に代位してその担保権を実行することができる旨定められている(同条三項)が、債権者が担保権の被担保債権を差し押さえ、その取立権を取得した場合にも同様に解されており(伊藤善博ほか・不動産執行における配当に関する研究(裁判所書記官研修所実務研究報告書)七二九ページ)、このことからも、法二二条が適用される場合の譲渡人に係る国税債権の地位が、右担保権の被担保債権を差し押さえた債権者の地位に類似するものとして考えられていることが明らかである。

2 さらに、法二二条二項は、徴収可能金額は、「前項の譲渡に係る財産の換価代金から同項に規定する債権が配当を受けるべき金額」(一号)から「前号の財産を納税者の財産とみなし、その財産の換価代金につき前項の国税の交付要求があったものとした場合に同項の債権が配当を受けるべき金額」(二号)を控除した額を超えることができない旨を定めているが、これによっても、法二二条によって譲渡人に係る国税を徴収する場合、国税債権者が自ら直接に右財産の強制換価手続に参加するものでないことは明らかである。けだし、右規定によると、徴収可能金額は、当該強制換価手続に自ら直接に参加する民事執行法上の配当要求債権者のように、自己の債権額(譲渡人に係る国税の滞納額)を基準として決まるのではなく、同条一項所定の担保権者が右財産の譲渡前及び譲渡後の各強制換価手続において受けるべき配当金額の多寡によって決まるものというべきだからである。例えば、法二二条一項の譲渡に係る財産の換価代金の額を一〇〇〇万円、同条一項所定の譲渡人に係る滞納国税の額を六〇〇万円、譲渡前の強制換価手続によって同条一項所定の担保権の被担保債権が配当を受けるべき金額を四〇〇万円とした場合、譲渡後になされた強制換価手続によって右被担保債権が配当を受けるべき金額が七〇〇万円であるときの徴収可能金額は三〇〇万円であるが、同配当金額が四〇〇万円であるときの徴収可能金額は零となるのである。

このように、法二二条が適用される場合、担保権者が回収できる被担保債権額は、右財産の譲渡前の強制換価手続によって配当を受けるべき金額と何ら異ならず、結局、担保権者は、担保権を設定する際に予想することができた配当金額を超えて担保権者に配当される金額(予想外の利益)から譲渡人に係る国税を徴収されるにすぎず、反面、譲渡人に係る国税は右予想外の利益のみから徴収できるにとどまるのであって、右財産の換価代金そのものから直接に国税を徴収するわけではないのである。

3 以上に述べたところから明らかなように、法二二条の交付要求は、交付要求という形式を採ってはいるものの、民事執行法八七条一項二号の債権者の配当要求とはその性質を異にし、むしろ、強制換価手続に参加している担保権者の被担保債権を差し押さえたことによる債権執行とその性質が類似しているのであって、このことからすれば、右交付要求権者は、民事執行法八七条一項二号にいう「債権者」に含まれないのはもちろんのこと、これとは全く異なる立場にあるのである。したがって、法二二条五項の交付要求につき民事執行法八七条一項二号を準用する根拠はなく、法二二条五項の交付要求は、執行機関が配当すべき金銭を同条一項所定の担保権者に交付するときまで、これを行なうことができると解すべきである。

ちなみに、国税及び地方税の各徴収実務においては、いずれも法二二条及びそれと同趣旨の地方税一四条の一六が制定されて以来、現在に至るまで一貫して、それらの規定に基づく交付要求は、執行機関が配当すべき金銭を担保権者に交付するときまですることができるとの解釈が採られている(例えば「国税徴収法基本通達」昭和四一年八月二二日付け徴収四―一三外五課・二二条関係22及び「地方税法(徴収関係)の取扱いについて」昭和三五年五月一六日付け自丙府発第三九号・一四条の一六関係(6)・エ)が、本件一審判決に至るまで、右徴収実務の解釈が否定されたことはなかったのである。

なお、現在の執行実務においては、民事執行法四九条二項が定める「租税その他の公課を所管する官庁又は公署」に対する債権届出の催告は、法二二条を適用して国税を徴収する税務署(前所有者の住所地を管轄する税務署)にはなされておらず、したがって、同条五項の交付要求をする税務署長は、民事執行法四八条一項に基づく差押えの登記や同法四九条二項が定める公告などによって、初めて、法二二条の譲渡に係る財産につき強制換価手続が行なわれていることを知り得るのであるが、一年間に行われる強制換価手続は、強制競売約二万件、担保権の実行としての競売約五万五〇〇〇件合計約七万五〇〇〇件もあり(最高裁判所事務総局・昭和六〇年司法統計年報1民事・行政編一二ページ参照)、他方、国税の滞納件数は約六九九万件に上っている(国税庁・第一一一回国税庁統計年報書(昭和六〇年度版)一六二ページ参照)。そのため、徴収職員として、法二二条の譲渡に係る財産につき強制換価手続が行なわれていることを遅滞なく把握し、同条適用の可否を早期に検討して、同条五項の交付要求をするということは誠に容易なことではないのである。ちなみに、最近三年間に法二二条五項が適用された事例七〇件のうち、当初に定められた配当要求の終期後に交付要求をした事例は二二件に上っている。

三 原判決は、法二二条五項の交付要求と法八二条の交付要求との関係について、「徴収法二二条五項の交付要求も同法八二条の交付要求と等しく執行裁判所の配当手続に参加することが求められていると解すべきであり、徴収法八二条の交付要求の終期が配当要求の終期に限定されると解される以上、徴収法二二条五項の交付要求の終期についても同様に解すべきである」(原判決一五丁表初行から六行目までに引用する一審判決二〇丁表三行目から八行目まで)、「徴収法二二条五項の交付要求は、同法(引用者注・「同条」の誤りと思われる。)一項所定の不動産譲渡がなされたとき、国税徴収を譲渡前の滞納者からでなく、担保権者の受ける配当金からなし得ることを定めたものであるが、この場合でも交付要求自体は明文上必要とされているのであるから、それがないかぎり配当を受けることはできず、この意味合いにおいて、国税債権の配当手続上の地位自体は徴収法八二条の交付要求一般の場合と何ら異なるところはない」(原判決一五丁裏八行目から一六丁表四行目まで)旨判示している。

しかしながら、原判決の右判断は、法二二条五項が適用される場合でも「交付要求」をすることが求められているとの形式にのみとらわれて、同項の交付要求が法八二条の交付要求とその性質を全く異にすることを看過し、その結果、法八二条の交付要求に民事執行法八七条一項二号が準用されることをもって、直ちに、法二二条五項の交付要求にも民事執行法八七条一項二号が準用されると判断したものであり、法二二条五項の解釈適用を誤るものである。

すなわち、原判決は、徴収法八二条の交付要求と法二二条五項の交付要求を同視しているが、そもそも、法八二条の交付要求についてさえも、配当要求の時期的制約に服するか否かをめぐって、議論があるところであり(租税法研究会編・租税徴収法研究(上)七七ページから八一ページまで参照)、租税債権には優先徴収権(法八条など)が与えられていることなどを理由に、租税債権の交付要求は配当要求とはその性質を異にするとして、右交付要求が配当要求の時期的制約に服さないとする考え方もあるが、多数説は、法八二条の交付要求につき民事執行法八七条一項二号を準用し、右交付要求は配当要求の終期に制約されると解しており(学説については、鈴木忠一ほか編・注解強制執行法(3)一〇二、一〇三ページ(宮脇幸彦・畔柳正義)、香川保一監修・注釈民事執行法3一七〇、一七一ページ(三宅弘人)参照)、国税徴収の実務においても同様に解している(前掲「国税徴収法基本通達」八二条関係2)。

このように、法八二条の交付要求に民事執行法八七条一項二号の準用を認める論拠は、法八二条の交付要求が執行裁判所の主宰する強制執行手続に自ら直接に参加して売却代金の配当等を求めるものであり、右交付要求権者の強制執行手続における地位が民事執行法八七条一項二号に定める配当要求債権者の地位と類似しているため、同交付要求の終期を配当要求の終期に限定し、配当要求の終期において各債権者の総債権額を把握しないことには、民事執行法が配当要求の終期を定めた趣旨が達成できないということにある。

しかしながら、法二二条五項の交付要求は、法八二条の交付要求と形式においては類似するものの、その性質は全く異っている。

まず、法八二条の交付要求は、納税者の財産につき強制換価手続が行なわれている場合に、当該納税者に係る滞納国税を徴収するために行うものであり、交付要求権者は、執行債務者(納税者)の債権者として、強制換価手続に自ら直接に参加するものであり、したがって、右交付要求権者の強制換価手続における地位は、民事執行法八七条一項二号の配当要求をした債権者のそれと類似しているといえる。しかし、法二二条五項の交付要求は、これと異なり、むしろ、民事執行法上の債権執行とその性質が類似するものであり、このことは前記二に述べたとおりである。しかも、配当手続に参加する参加の仕方が全く異なり、法二二条五項の場合は、自ら直接に当該配当手続に参加するのではなく、同手続に参加している法二二条一項所定の担保権者の配当金に対する取立権を取得するにすぎず、同手続上に独立した地位を有しないのであって、民事執行法八七条一項二号を準用しなくとも、配当要求の終期を定めた趣旨は何ら害されないのである。

このように、法八二条の交付要求に民事執行法八七条一項二号を準用すべきであるとする前記見解が理由として掲げているところは、法二二条五項の交付要求に民事執行法八七条一項二号を準用すべき理由としては妥当しないのである。したがって、法八二条の交付要求については民事執行法八七条一項二号が準用され、その終期が配当要求の終期に限定されるとしても、それだからといって法二二条五項の交付要求についてそれと同様に解すべき合理的な理由は何ら存在しないというべきであり、この点を看過して、法二二条五項の交付要求の終期についても法八二条の交付要求の場合と同様に解すべきであるとした原判決の判断が、同項の解釈を誤っていることは明らかである。

なお、原判決は、法二二条五項の交付要求についての特別な手続規定はないとした上、同交付要求の「手続は徴収法八二条の交付要求に準ずるものであることが予定されているというべきで」ある(原判決一五丁表初行から六行目までに引用する一審判決一九丁裏一〇行目から二〇丁表初行まで)旨判示しているが、法一八六条は、「この法律の実施のための手続その他その執行に関し必要な事項は、政令で定める。」と規定し、そして、それを受けた国税徴収法施行令(以下、単に「令」という。)六条二項は、「法第二二条五項の規定による交付要求は、同条第一項に規定する質権者又は抵当権者の氏名及び住所又は居所並びに同条五項の規定により交付要求をする旨を第三六条第一項(交付要求書の記載事項)の交付要求書に記載してしなければならない。」と規定して、法二二条五項の交付要求につき、法八二条の交付要求とは別個の手続を設けているのであるから、原判決の右判断は誤りである。

四 原判決は、「同条(引用者注・法二二条)は、財産の譲渡後における担保権者の地位を、財産の譲渡前よりも不利なものにしようとしたものではない。ところが、同条五項の交付要求の終期が配当要求の終期に限定されないとすると、担保権者は、財産の譲渡前においては、配当要求の終期後の国税の交付要求に対してはこれに優先されることなく配当を受けることができたのに、たまたま財産が譲渡されたことによって、配当要求の終期後の国税の交付要求に優先されて配当を受けることができなくなるという不均衡が生ずる。このような不公平は、徴収法二二条の前記趣旨に合致しない。従って、同条五項の交付要求の終期も配当要求の終期に限定されると解するのが相当である。」(原判決一五丁表初行から六行目までに引用する一審判決二〇丁裏初行から末行まで)旨判示している。

しかしながら、原判決の右判断は、法二二条五項の交付要求と法八二条の交付要求とを不当に同視した上、両者の交付要求の終期が異なるのは不均衡であるとの誤った前提の下に、法二二条五項の交付要求の終期が配当要求の終期に限定されるとしたものであって、次のとおり、法二二条の解釈適用を誤ったものである。

1 法二二条は、前記二で述べたように、同条一項所定の担保権者が享受する予想外の利益という、いわば担保権者の保有する財産的利益から譲渡人に係る国税を徴収しようとするものである。したがって、法二二条が適用される場合、担保権者は、同条によって徴収される譲渡人に係る国税との関係では納税者に類似するような立場に立つものといってよい。ちなみに、同条五項の規定により交付要求をする場合、その交付要求書には、法八二条の規定による交付要求をする場合の交付要求書では滞納者の氏名及び住所又は居所を記載すべき旨が定められている(令三六条一項一号)のとは異なり、担保権者の氏名及び住所又は居所を記載すべきこととされており(令六条二項)、また、法八二条二項(滞納者への通知)に準ずる通知は担保権者に対して、同条三項(質権者等への通知)に準ずる通知は担保権者の利害関係人に対して行うという取扱いがなされている(前掲「国税徴収法基本通達」二二条関係23)。

このように、法二二条一項所定の担保権者は、同項の譲渡に係る財産が譲渡人の財産として強制換価される場合には、法八二条の交付要求によって徴収しようとする譲渡人に係る国税との関係では、譲渡人が所有する当該財産の売却代金を争う立場に立ち、いわば利害関係を有する第三者というべき地位にあるが、当該財産が譲渡された後に強制換価される場合には、法二二条五項の交付要求によって徴収しようとする譲渡人に係る国税との関係では、自己が享受する予想外の利益を争う立場にあるから、いわば直接の対立当事者ということになるのであって、譲渡人に係る国税との関係で有する立場が全く異なるのである。

2 また、法八二条の交付要求は、「滞納者が他の換価の容易な財産で第三者の権利の目的となっていないものを有しており、かつ、その財産により国税の全額を徴収することができると認められるとき」にはこれを行うことはできないと定められている(法八三条)が、法二二条五項の交付要求は、担保権付財産の譲渡時において「納税者が他に国税に充てるべき十分な財産がない場合」で、かつ、現に「納税者の財産につき滞納処分を執行してもなおその国税に不足すると認められるときに限り」、これをなすことができるにすぎない(同条一項)。したがって、滞納国税の法定納期限等の後に登記された担保権の設定に係る財産から国税を徴収しようとする場合において、当該財産が納税者の財産として強制換価されるときに行なわれる法八二条の交付要求は、納税者の財産が他にあり、その財産により右滞納国税の全額を徴収することができるときであっても、その財産の換価が容易でないとき又はその財産が第三者の権利の目的となっているときには、これを行なうことができるが、他方、当該財産が譲渡人の財産として強制換価されるときに行なわれる法二二条五項の交付要求は、納税者の他の財産から右滞納国税の全額を徴収することができる以上、これを行なうことができない。このように、法二二条五項の交付要求の要件が法八二条の交付要求の要件よりも厳しくなっている結果として、法二二条一項所定の担保権者は、手続的な面では、納税者の財産が譲渡される前より有利な立場に立っているのであり、それにもかかわらず、更にその上、原判決のように、同条五項の交付要求をなし得る時期を制限的に解し、右担保権者の立場を有利なものとすることは、法二二条の立法趣旨に反するものというべきである。

したがって、原判決のように、法二二条一項の交付要求と法八二条の交付要求の終期が同一でないと不均衡であるとするのは、両者の基本的な相違を看過するものであって不当である。

五 原判決は、「右交付要求(引用者注・法二二条五項の交付要求)の終期を配当要求の終期に限定する合理的理由がないということはできない。すなわち、右交付要求の終期を配当要求の終期に限定することによって、債権者の範囲を確定し、債権者らの各債権額を把握することができるなど配当手続が明確となり、担保権者も配当要求の終期の時点で配当が受けられるかどうかを判断できるし、担保権者が競売申立権者である場合には、右の時点で競売手続が無益かどうかを判断して無益な手続の追行を避けることができるからである。」(原判決一五丁表初行から六行目までに付加して引用する一審判決二一丁表四行目から一一行目まで)と判示している。

しかしながら、原判決は、法二二条五項の交付要求によって譲渡人に係る国税を徴収しようとする租税債権者が、「執行債務者の債権者に対する債権者」に類似する立場にあるものであり、民事執行法八七条一項二号により配当要求の終期までに配当要求をすることが求められている「執行債務者に対する債権者」とはその立場が異なることを全く看過しており、次のとおり、法二二条五項の解釈を誤り、その結果、不動産執行手続に配当要求の終期が設けられている趣旨について誤った判断をしているのである。

1 民事執行法附則三条による改正前の民事訴訟法(以下「旧民事訴訟法」という。)六四六条二項は、不動産強制競売手続につき、配当要求は競落期日の終りに至るまでに行なうことを要すると定めていたが、そのように制限していた理由は、この時期における各債権者の総債権額を把握して競落を許可する限度を判断する資料とする必要があるとともに、競落許可決定の確定後に行われるべき配当手続の円滑かつ迅速な進行を考慮したからである(鈴木忠一ほか編・前掲注解強制執行法(3)一〇一ページ)とされていた。民事執行法は、右配当要求をなすべき時期につき、物件明細書の作成までの手続に要する期間を考慮して、執行裁判所が定める配当要求の終期(同法四九条一項)に限定することとし、旧民事訴訟法六四条二項に比べるとその時期を大幅に繰り上げているが、その理由は、競落期日の終りに至るまで配当要求を認めたのでは、せっかく最高価競落人が出現しても、競落許可決定の言渡しまでに一般先取特権者の配当要求があったりすると、差押債権者については無剰余となって競落手続を取り消さなければならなくなる事態が生じ得る不都合があり、売却手続を不安定なものにしていたからである(香川保一監修・前掲注釈民事執行法3一四一ページ)とされている。

このように、不動産執行手続において配当要求の終期が定められているのは、①執行裁判所が競落を許可する限度(無剰余や超過売却の有無など)を判断する資料とする、②競落許可の確定後に行われるべき配当手続の円滑かつ迅速な進行を図る、③競落申出人の地位を保護して売却手続を安定させるという三つの目的のために、執行裁判所をして、売却代金の配当等を受けるべき各債権者の総債権額を把握できるようにするためであると考えられる。

ところで、法二二条五項の交付要求権者のように、強制換価手続に自ら直接に参加せず同手続上に独立した地位を有しない債権者は、自らがその債権額につき直接に売却代金の配当等を受けるものではないので、その存在及び債権額は、執行裁判所が競落を許可する限度や各債権者への配当額を判断する上において何ら考慮する必要はなく、右交付要求権者が配当要求の終期後に出現したとしても、それによって差押債権者が無剰余と判断され、売却手続を不安定にすることもない。したがって、法二二条五項の交付要求の終期が配当要求の終期に限定されないと解しても、民事執行法が配当要求の終期を定めた趣旨を阻害することにはならないのである。

2 この点につき、原判決は、法二二条五項の交付要求が配当要求の終期に限定されると解すべき理由として、①債権者の範囲を確定し、債権者らの各債権額を把握することができるなど配当手続が明確となる、②法二二条一項所定の担保権者が配当要求の終期の時点で配当が受けられるかどうかを判断できる、③担保権者が競売申立権者である場合には、右の時点で競売手続が無益かどうかを判断して無益な手続の追行を避けることができる、との三点を掲げている。

しかしながら、まず、右①の「配当手続の明確化」ということを理由として法二二条五項の交付要求の終期が配当要求の終期に限定されると解するのは正当ではない。けだし、法二二条五項の交付要求権者のような強制換価手続に自ら直接に参加せず、したがって同手続上に独立した地位を有しない債権者の存在によって配当手続に影響を及ぼすことはないというべきだからである(前記五・1)。

次に、右②の理由は、配当要求の終期による制約を適用すべきであるという理由にはならない。けだし、配当要求の終期は、配当手続に参加している個々の債権者が自己に配当があるか否かを判断できるようにするために設けられているのではないからである。ちなみに、配当手続に参加している債権者といえども、当該債権又は配当金交付請求権が自己の債権者により差し押さえられた場合には、右債権又は配当金交付請求の取立権を失い、自己が受けるべき配当金を受領することはできなくなるのであり、その意味では、右債権者が配当金の交付を受け得るかどうかは、執行裁判所が配当すべき金銭を右債権者に交付するまでは確定しないということができよう。

また、右③の理由も、配当要求の終期による制約を適用すべきだという理由にはならない。けだし、原判決がいう「無益な手続の追行」とは、その判文に照らすと、競売申立人が自己に配当されるべき金銭の交付を受けることができないことを意味していると認められるが、民事執行法六三条一項にいう「剰余を生ずる見込みがないと認められるとき」とは、競売申立人に配当されるべき金銭が本来的にない場合をいい、配当されるべき金銭はあるが、例えば競売申立人の債権者から差し押さえられたり、本件のように法二二条五項の交付要求がされるなどして実際にはその交付を受けることができない場合を含まないと解されるからである。ちなみに、法二二条一項所定の担保権者が競売申立てを取り下げた場合、同条五項の交付要求債権者は、同条三項に基づき担保権を代位で実行することができるので、それにより、右担保権者が配当を受けるべき金銭のうちから徴収可能金額を徴収することができるのである。

六 以上のとおり、法二二条五項の交付要求の場合にも配当要求の終期の制約を受けるとした原判決の判断は、法二二条五項及び民事執行法八七条一項二号の解釈適用を誤っているというべきであり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は速やかに破棄されるべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例